~定時決定とは?手取りが減る理由をやさしく解説~
「毎年9月になると、なぜか社会保険料が上がる気がする…」そんな経験はありませんか?
残業が増えたり昇給したりして給与が変動すると、実際の給与と標準報酬月額に差が生じることがあります。
そこで年に1度、実態に合わせて見直す仕組みが「定時決定(ていじけってい)」です。
この記事では、定時決定の仕組み・対象期間・例外ケースまで、社会保険の専門知識がなくても理解できるように解説します。
会社員・個人事業主・経営者など、どなたにも役立つ内容です。
定時決定の基礎となる月と社会保険料の反映月
定時決定では、4月・5月・6月に実際に支給された給与(報酬)をもとに標準報酬月額が決まります。
この決定結果は、毎年9月分の社会保険料から適用され、実際に保険料が変わるのは10月分からになります。

支払基礎日数17日以上が条件
定時決定の対象になるには、以下の条件を満たす必要があります。
- 4月、5月、6月のそれぞれの月に支払基礎日数が17日以上あること(正社員・フルタイムの場合)
※短時間労働者の場合は11日以上
この「支払基礎日数」とは、給与計算のもととなる日数のこと。
たとえば、有給休暇、出勤日、就業規則に定める労働日数などが含まれます。
給与の締め日が3月31日で、4月に給与支払日がある場合、4月の「支払基礎日数」は3/1~3/31の暦日数となります。
支払基礎日数が17日未満の月があれば、その月は報酬月額算定の対象から外して平均額を計算することになります。

※自治体によって健康保険料率が異なるため、保険料額表も自治体によって異なります。
実際の保険料額表は、こちらをご覧ください。
定時決定が行われないケース
次に該当する人は、定時決定の対象外になります。
- 本年6月1日から7月1日までの間に入社した人
- 本年6月30日以前に退職(資格喪失日は7月1日)に退職した人
- 昇給や降給などの理由による固定的賃金の変動により7月~9月に標準報酬月額が随時改定される人
- 7月~9月に育児休業等終了時改定もしくは産前産後休業終了時改定が行われる人
随時改定との違いとは?
定時決定と混同されやすいのが「随時改定(ずいじかいてい)」です。
- 定時決定:年に1回(7月に標準報酬月額を決定し、9月から反映)
- 随時改定:給与の大幅な変動があったときに都度変更(年数回あり得る)
昇給や降給によって標準報酬月額が2等級以上変動した場合は、随時改定の対象になります。
定時決定で社会保険料が上がる理由とは?
4月〜6月に残業が多かったり、一時的に手当が加算されたりすると4月~6月の3か月間の平均給与が増えることで標準報酬月額が上がる可能性があります。結果として、10月以降の社会保険料が増額され、手取りが減ってしまうこともあるのです。
具体的には、以下のような項目が報酬として計算されます:
- 基本給
- 残業手当(時間外手当)
- 通勤手当(非課税分も含む)
- 家族手当
- 住宅手当
- 役職手当 など
一見、手当や残業で給与が増えて喜ばしいことに思えますが、一時的な増収が逆に手取りの減少につながるというケースもあるので注意が必要です。
たとえば4月から6月にかけて繁忙期で残業が非常に多かったことを例にとると、4月~8月までは昨年度に決定した標準報酬月額が適用され続けるため、所得税や住民税の影響はあるもののほぼ残業手当分を手取りとして受け取ることができます。しかし、その影響で標準報酬月額の等級が上がった場合、9月から新たな標準報酬月額が適用されるため、10月以降の手取りが減ってしまうことになります。
定時決定を見越して調整できることは?
被保険者自身が自分で調整できることはあまりありませんが、会社との調整でできることもあるかもしれません。次のようなことを考えてみてはいかがでしょうか。
○ 4~6月の残業を減らす
○ 通勤手当が安くなるように住む場所を考える
△ 短期的な手当の支給時期を分散させる
△ 年4回以上の賞与の場合は賞与4回分を12で割って月々の報酬に入れないといけないため標準賞与額と比較してどちらのほうが社会保険が安くなるかを考える
(○:被保険者自身で調整可能、△:会社との話し合いで調整可能)
まとめ|定時決定は“将来の保障”も左右する大事なタイミング
定時決定は、単に「毎年9月から保険料が変わる制度」ではなく、これから1年間の社会保険料と将来の年金額を左右する“重要な判断材料”となります。
たしかに、4〜6月の報酬を抑えれば健康保険料や厚生年金保険料が安くなり、同じ医療給付(療養の給付など)を、より安い保険料で受けられるという側面があります。
しかし一方で、厚生年金の保険料が下がる=将来もらえる年金額が減るという現実もあります。
短期的な「得」だけでなく、長期的なライフプランや老後資金のことも視野に入れて判断することが大切です。
毎年の定時決定は、いわば“将来の安心”を見直すチャンス。
自分の給与明細や年収の流れをしっかり把握し、「なんとなく引かれている保険料」から一歩踏み込んで理解を深めていきましょう。